きみと同じ歳のころ

いつも眠たい人が書いた文章置き場

菓子

人の惚気話を聞くのが好きだ。まったく嫉妬しない。うらやましいとも思わない。ただしあわせな人のしあわせな話を聞くのが好きなのだ。「すてきだねえ」と相槌をしながらにこにこしてしまう。あなたのしあわせが私のしあわせ、ではないが、聞いていて悪い気はまったくしない。頼む、正しい形でしあわせである人よ、このまましあわせであってくれ。

「私の誕生日に彼と旅行に行ってね」
「ほう」
「彼はサプライズをするのが苦手なんだけど、旅館に着いて部屋でのんびりしてたらサプライズの誕生日ケーキが出てきたの。前もって旅館に連絡してくれてたみたいで」
「いいね、それめっちゃいいね。うれしいね」

そうずっとしあわせそうに話す会社の同僚の女の子(同い年)はお土産に草餅と抹茶のおしゃれなクッキーをくれた。食べたらおいしかった。私は食堂にある自販機コンビニでブラックサンダーを買い、お礼とお誕生日祝いを兼ねてその子にあげた。即席で用意したものだったがよろこんでくれた。なによりである。

街コンに行ったことがある。いまはもう会社を辞めてしまったまた別の女性と恵比寿という富裕層しか足を踏み入れていけない土地で開催された街コンに行ったのである(私は貧民なので、富裕層の空気を吸ったら肌がパリパリに乾いた)。私は最初から恋人を作る気が毛頭なく(社会勉強のつもりで行った)、席替えのときみんなで連絡先を交換するのだが、私はそれが嫌だったので、現代ではありえないのに「LINEやってないんですけど、家帰ってからインストールするのでID教えてもらえませんか?」と言って付箋とペンを渡した。面白いほど律儀に教えてもらった。怪しまれているとは思ったが、知らんぷりをし、IDを書いてもらった付箋は帰りに細かく破って駅のゴミ箱に捨てた。

一緒に行った女性は街コン後何人かと会って食事をし(しかしそのうちの何人かがやばい人だったらしい)、最終的にはめでたく平和な彼氏を作っていた。聞けば色々と教えてもらえたので「休日ふたりでなにしてるの?」と聞いたら「(映像配信サービスで)サザエさんを観てる」と言ったので面白かった。おうちデートでサザエさんって。不思議なふたりだなあ。とりあえずAmazonプライムビデオで観れる「子猫TV 宇宙の子猫たち」をおすすめした。ストーリーなどなく、ただ猫がかわいいだけの動画である。「あと、2001年宇宙の旅は退屈でおすすめだよ」と言ったらたまたま近くにいた先輩に「名作映画をあんな風に言うんじゃありません」と言われた。

その当時の話で恐縮だが、話を聞く限りなんだかんだ仲良くやっているようなので(いまはどうなっているか分からないが)とてもいいなと思った。しかしうらやましくはならない。パリパリに乾いている。